脳性まひ児における股関節の亜脱臼体験記
みなさんは『股関節の亜脱臼』という言葉を聞いたことありますか?
赤ちゃんの時に「股関節の脱臼を防ぐためにM字開脚で抱っこしようね!」というのは聞いたことがあると思います。脳性まひ児は筋緊張(筋肉に力が入り過ぎてしまうこと)等の原因により、乳児期を過ぎても股関節が徐々に外れていってしまう『股関節の亜脱臼』を起こす事があるんです。今回は我が家の次男の「股関節亜脱臼体験」をお話したいと思います。
完全に外れると脱臼となる。
写真左は正常な状態の股関節。写真右は股関節が亜脱臼を起こしている状態。黄色で囲った部分を見ると、大腿骨の骨頭が骨盤から大きく横へズレているのが分かる
気付いたきっかけは左右の足の長さの“ずれ”
最初のきっかけは、次男が3歳の時に行った身体障害者手帳を更新する際の四肢の可動域や左右差を測る検査でした。1年前に測った時には同じだった左右の脚の長さが、その時1cmズレていたのです。担当した理学療法士の先生から整形外科の受診を薦められました。当時の私は「股関節の亜脱臼」という症状を知らず、次男の脚の長さを全く気にしたことがなかったので気が付かなかったことにとても落ち込みました。
異常が見つかったころの次男。歩行器を使って移動する練習を頑張っていました。
最初の整形外科で驚きの診断が
焦る私の気持ちとは裏腹に、紹介状をもらい障がい児に特化した整形外科を受診できたのはそこから4ヶ月後。次男は4歳になっていました。レントゲンを撮り診察を受け、先生にかけられた言葉は予想以上に深刻でした。
「今すぐ手術が必要です!!ギリギリです!外れたら大変な事になるから、リハビリも今日から中止、動かしてはいけません。一刻も早く手術した方がいいので空いてる日に入れましょう!」
今手術しないともう明日の命はないぐらいの勢いで詰め寄られたので、私は半泣きでした。その時次男は胃ろう増設の手術を終えたばかり。そんなに悪いのか、また手術しないといけないのかと呆然としたのですが、その一方で妙に冷静な自分もいて、心の声が「ちょっと待て」と言うので一度よく考える事にして帰宅しました。
セカンドオピニオンでは真逆の意見が
どうしてもすぐに手術したくなかったので、本当に他の方法が無いのかセカンドオピニオンを求めて以前先輩ママから教えて貰った大阪にある病院まで遠征することにしました。驚くことに、大阪の先生の治療方針は地元の先生とは対極のものでした。
「今手術すると思春期で再発する可能性が高いので、ボトックス注射で緊張を和らげながら積極的にリハビリをして、手術をできるだけ先へ延ばしましょう」
あまりに正反対の言葉に混乱し、どちらを選ぶべきか非常に迷い苦しみました。私の判断により痛く苦しい思いをするのは私ではなく次男です。
亜脱臼のうちは痛みもなく、手術も筋を切る簡単なもの済むが、完全に外れてしまうと痛みが出る上に骨を触る大きな手術になるそうで、動かして万が一股関節が外れてしまったらどうしよう、でもできるだけ手術は先に延ばしたい…。
地元に戻り、家族や理学療法士の先生たちに相談し、最終的に私の希望に近い治療方針である大阪の先生を頼りにする事に決めました。この時点で次男の亜脱臼進行度は40%程度でした。
ここで注意すべきは、どちらの先生の治療方針も「股関節の亜脱臼を治療する」事に対して間違いではない事です。アプローチの違いはあっても、どちらを選んでも最終的に亜脱臼は治ります。
整形外科医の治療方針は地域によって異なることがあり、地域の先生と考えが一致しない場合は他県での受診も選択肢の一つです。しかし障がいの度合いや家庭の事情、経済的な問題などは個々に異なります。総合的に判断し、選ばれた治療方針はすべて正解だと私は思います。
いざ手術。待ち受けていたのは怒涛の日々
定期的にボトックス注射を受けに大阪へ通いながら地元でリハビリを続けた次男ですが、開始から1年程経過した5歳の冬、亜脱臼の進行が70%を超え、ついに手術となりました。
手術前後20日、リハビリ2ヶ月間の長期入院です。当時小学3年生の長男がいるため、手術後一旦退院してギブスの次男を連れ帰り2週間自宅で過ごすことにしましたが、ここで大きな誤算が。
私が20日間留守だった反動か、帰宅して直ぐ計ったように長男が咽頭炎にかかり連日40度越え。夫は仕事が忙しく、ワンオペです。胸から下がギプスでガッチガチになってる次男と高熱でぐったりしている長男を一人で抱えて1週間以上毎日小児科へ通う事になり地獄を見ました…。再入院の日ギリギリに長男が回復し、無事病院へ戻ることができました。今思うと、あれは「僕も見て!」という長男の心の叫びだったのかな、さみしかったよね。
(左)ギプスに絵を描いてもらったよ (右)ギプスのままリハビリ中
リハビリの2ヶ月間は単独入院で頑張ってくれました。毎週末次男に会いに大阪へ往復7時間を繰り返す生活は大変でしたが、大阪通いを利用して春休み中の長男と二人でUSJへ行ったりと楽しみも盛り込みました。
退院後は再発防止の為に外転防止装具と短下肢装具の装着が必要でして、次男下半身の防御力が最高値を更新。中々にいかつい見た目で抱っこも大変ですし、手順が増えてお世話の時間がかかる。半年ほどで外転防止装具は夜だけの装着になり、随分楽になりました。
夜間に着けている装具。このまま寝ています。
現在は手術から1年が経過し、定期検査では綺麗に股関節がはまっている状態がキープできています。次男は手術年齢が低かったため再発の可能性が高く、まだリスクは残っています。今後は再発に気を付けながらリハビリを継続していく予定です。
最後に、こちらはあくまで次男の体験記ですので、全てのお子様に当てはまる結果ではありません。股関節の亜脱臼がご心配の方は一度主治医にご相談ください。